知的障害のある方からハラスメントを受けたとき|「障害者だから仕方ない」で終わらせないための対応

職場で、知的障害のある方から不快な言動を受けている。

上司に相談したけれど、「障害があるから仕方ない」で終わってしまった。あるいは、相談したこと自体を後ろめたく感じている——。

このテーマで検索される方の多くは、すでに一度、誰かに相談して、うまくいかなかった経験を持っています。

先に、はっきりお伝えします。

「障害があるから仕方ない」は、対応ではありません。

障害の有無にかかわらず、職場で起きている問題は、職場が対応すべきものです。あなたが我慢して収める理由はありません。同時に、本人を責めて終わらせることも解決になりません。

この記事では、その両方を成立させるための具体的な手順を整理します。


目次

「相談しにくい」と感じるのは、あなただけではありません

このテーマが扱いにくいのは、次の構造があるからです。

  • 障害のある方への配慮が必要だと理解している
  • だからこそ「困っている」と言いにくい
  • 言えないまま、特定の職員が一人で抱える
  • 抱えた職員が疲弊し、離職や異動につながる

実際、同じ悩みを抱えた方の相談が、インターネット上のQ&Aサイトに数多く投稿されています。そこには「精神的に参っています」「仕事は嫌いではないので辞めたくない」という言葉が並びます。

辞めたいわけではない。ただ、この状況をどうにかしたい。 それが多くの方の本音です。

ここで確認しておきたいことがあります。

「困っている」と口に出すことは、差別ではありません。

職場で誰かの言動に困っているとき、その相手に障害があるかどうかにかかわらず、困っている事実は事実として扱われるべきものです。障害の有無で「言ってはいけないこと」になってしまうと、結果的に本人も、周囲の職員も、必要なサポートを受けられなくなります。


あなたはどの立場ですか

同じ「知的障害のある方からのハラスメント」でも、立場によって取れる手段が変わります。ご自身に近いものをご覧ください。

立場相手主な対応の軸
① 企業で働く同僚・上司・人事同じ職場の社員就業規則・職場ルール・本人への伝え方
② 福祉・介護施設の職員施設の利用者事業所としての体制・厚労省の指針
③ 接客業のスタッフ来店客カスタマーハラスメントとしての対応

以下、①を中心に説明し、②③については専用の章を設けます。


実際に起きていること——セクハラを含めて

このテーマで最も多く相談されているのは、実は「暴言」や「暴力」ではありません。性的な言動です。

具体的には、次のような場面です。

  • 下着や身体つきについて繰り返し話しかけられる
  • 必要以上に距離が近い、耳元で話しかけられる
  • 肩や腕を触られる、身体に接触してくる
  • 出退勤の時間を待たれる、後をついてこられる
  • 特定の職員にだけ執着し、繰り返し話しかける

多くの記事は、このテーマを避けます。扱いにくいからです。しかし避けたままでは、実際に困っている人が対応できません。

これらは、相手に障害があるかどうかにかかわらず、職場が対応すべき事案です。 性的な言動については、企業には防止措置を講じる義務があります。「障害があるから」は、その義務を免除する理由になりません。


「悪意がない」ことと「我慢すべき」ことは、別の話です

ここが、この問題の中心です。

知的障害のある方の言動が問題として現れる場合、その多くは相手を困らせる意図がありません。背景には、次のような要因があります。

距離感や暗黙のルールを学ぶ機会がなかった 職場での人との距離、話しかけていいタイミング、聞いていいことと聞かないほうがいいこと——これらの多くは明文化されていません。多くの人は経験の中で自然に身につけますが、その機会が十分になかった場合、悪意なく踏み込んでしまうことがあります。

「やめてほしい」が伝わっていない 周囲はすでに何らかの意思表示をしていることがほとんどです。ただ、その伝え方が遠回しであることが少なくありません。「ちょっと今忙しくて」「あー、うん」といった曖昧な返しは、相手を傷つけないための配慮ですが、「やめてほしい」という意味では伝わっていないことがあります。

相手が嫌がっているサインを読み取りにくい 表情や声のトーンの変化から「嫌がっている」と察することが難しい場合があります。サインを無視したのではなく、読み取れなかった、という状態です。

ここで結論を間違えないでください

以上は、本人を責めないための説明であって、あなたが我慢する理由の説明ではありません。

悪意がないことと、その言動を受け続けなければならないことは、まったく別の話です。

必要なのは、次の2つを同時に進めることです。

  1. 本人に、わかる形で伝えること
  2. 職場の側にルールと体制をつくること

やってはいけない3つの対応

① 我慢する

「障害があるのだから仕方ない」と職員が耐える対応です。

負担が特定の職員に集中し、その職員が疲弊します。そして本人は、その言動が問題であることを知る機会を失ったままになります。どちらにとっても損失です。

② 放置する

「そのうち落ち着くだろう」と様子を見る対応です。時間が経つほど言動が習慣として定着し、あとから変えることが難しくなります。

③ 遠ざける・配置転換する

接触を減らせば表面的には収まりますが、問題そのものは解決していません。異動先で同じことが起きます。また本人にとっては理由がわからないまま職場を移されることになり、働く意欲を損ないます。


職場が取るべき手順

ステップ1|「評価」ではなく「事実」を記録する

まず、何が起きているのかを記録します。このとき記録するのは、印象や評価ではなく事実です。

記録する(事実)記録しない(評価)
9月2日 14時ごろ、業務中に約20分話しかけ続けたしつこい
「彼氏はいるの」と3回聞かれた距離感がおかしい
断ったあとも、翌日に同じ質問があった悪質
肩に手を置かれた(2回)セクハラだ

事実で記録すると、「何を変えればいいか」が具体的に見えます。評価で記録すると本人の人格の問題として扱われてしまい、改善につながりません。

そして記録は、相談が通らなかったときの最大の武器になります。 「困っている」と言うだけでは動かなかった上司も、日時と回数が並んだ記録を前にすると判断せざるを得なくなります。

ステップ2|伝える人を1人に決める

複数の職員がそれぞれのタイミングで注意すると、本人は混乱します。伝える役割を担う人を決め、その人から一貫した内容で伝えます。

日常的に業務指示を出している担当者や、本人が信頼している担当者が適しています。

ステップ3|本人にわかる形で伝える

配慮のつもりで遠回しに伝えると、伝わりません。

伝わりにくい伝わりやすい
「ちょっと今、忙しいかな」「仕事中は話しかけないでください」
「その話はまた今度ね」「体のことは話さないでください」
「もう少し考えて行動しようね」「休憩時間になったら話しましょう」

はっきり伝えることは、冷たくすることではありません。わかる形で伝えることが、本人を尊重した対応です。

さらに3つのポイントがあります。

「してはいけないこと」と「代わりにすること」をセットにする 禁止だけを伝えると、本人はどうすればいいかわからなくなります。

×「業務中に話しかけないでください」

○「業務中は話しかけないでください。話したいことがあるときは、休憩時間に話しましょう」

その場で、短く、1つだけ伝える 時間が経ってからまとめて伝えると、どの場面のことか結びつきません。

大勢の前では言わない 他の職員がいる場所で指摘すると、本人が強く落ち込み、内容が入らなくなります。別の場所に移してから伝えます。

書いて渡す 口頭だけでは残りません。「仕事中は話しかけない/話は休憩時間に」と短く書いて渡すと、あとから確認できます。

ステップ4|職場のルールとして位置づける

個人間の問題として処理せず、職場のルールとして明文化します。

  • 業務中の私語の範囲
  • 身体接触の禁止
  • 休憩時間の過ごし方
  • 困ったときの相談先

特定の人だけに向けたルールにしないことが重要です。全員に適用されるルールとして整備すれば、本人も「自分だけが責められている」と感じずに済みます。


相談したのに、改善しなかったときは

このテーマで検索される方の多くが、すでにここで詰まっています。

「障害者だから仕方ない」と言われた場合

その回答は、対応ではありません。次の段階に進んでください。

段階相談先
1直属の上司
2その上の管理職・部門長
3人事部・本社の管理部門
4社内のハラスメント相談窓口
5産業医・保健師(体調に影響が出ている場合)
6社外の相談窓口

段階2と3を飛ばさないでください。 現場の判断で止まっているだけで、人事部が状況をまったく把握していないケースが非常に多くあります。

伝え方を変える

「つらいです」ではなく、事実・回数・期間で伝えます。

「6月から、同じ内容の発言を週に2〜3回受けています。直近は9月2日です。

注意しましたが変わっていません。記録を持ってきました。」

ステップ1で作った記録が、ここで効いてきます。

そして「私が困っている」ではなく、「職場として対応が必要な状態」として伝えます。実際、同じことは担当者が変わっても起こります。個人の問題ではありません。

社外の相談窓口

社内で解決しない場合、次の窓口を従業員本人が直接利用できます。

総合労働相談コーナー(各都道府県労働局・労働基準監督署内) 職場のトラブル全般について、無料・予約不要で相談できます。専門の相談員が対応し、必要に応じて会社への助言・指導につながる場合があります。

こころの耳(厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト) 体調面に影響が出ている場合の相談先として利用できます。

外部への相談は「大ごとにする」ことではありません。解決しない状態を一人で抱え続けることのほうが、結果的に大きな損失になります。


【福祉・介護施設の職員の方へ】

利用者からのハラスメントについては、厚生労働省が事業者向けの指針を示しています。

「障害福祉サービス等事業者向け 職員を利用者・家族等によるハラスメントから守るために」という資料が公開されており、職員を守ることは事業者の責務として位置づけられています。

つまり、「利用者だから我慢する」は、国の考え方とも一致しません。

現場で確認していただきたいのは次の点です。

  • 事業所として、ハラスメント発生時の対応方針が定められているか
  • 記録の様式が用意されているか
  • 一人で対応しない体制(複数対応・同性介助など)が取れるか
  • 管理者に報告するルートが機能しているか

体制がない場合、まずは記録を残し、管理者に対して「事業所としての方針を決めてほしい」という形で提起する方法があります。個人の訴えとしてではなく、事業所の責務として持ち込むほうが動きやすくなります。


【接客業の方へ】——お客様の場合

来店されたお客様から同様の言動を受けた場合は、カスタマーハラスメントとしての対応になります。

対応の原則は、相手に障害があるかどうかで変わりません。

  • 一人で対応し続けない(複数名で対応する)
  • 対応時間の上限を決めておく
  • 記録を残す
  • 対応を打ち切る基準を、事前にチームで決めておく

ただし、伝え方については本記事のステップ3が応用できます。曖昧な断り方ではなく、短く具体的に伝えるほうが伝わります。

現場での対応方法については「カスハラが起きたとき現場がやってはいけない5つの対応」、上司が動いてくれない場合については「カスハラを上司が対応してくれないとき」もあわせてご覧ください。


逆のケース——本人が被害を受けている場合

ここまでとは逆に、知的障害のある方自身がハラスメントの被害を受けているケースにも触れておく必要があります。

知的障害のある方は、次の理由から被害に遭いやすい側面があります。

  • 何がハラスメントにあたるのかを判断しにくい
  • 被害を受けても、それを言葉にして相談することが難しい
  • 断ることが苦手で、望まない要求を受け入れてしまうことがある

被害を受けていても本人から報告が上がらないため、職場が気づかないまま続いている可能性があります。

定期的な面談で「困っていることはないか」を具体的に聞くこと、相談先を本人にわかる形で伝えておくことが必要です。「何かあったら言ってね」ではなく、「〇〇さんに、いつでも話していいです」と具体的に伝えます。


本人が「学ぶ機会」を持つという解決策

ここまで、職場の側で整えることを中心に説明してきました。

もう一方の解決策が、本人がハラスメントについて学ぶ機会を持つことです。

「何がハラスメントにあたるのか」「相手が嫌がっているサインをどう受け取るか」「自分が困ったときにどう伝えるか」——これらは、機会があれば身につけられるものです。学ぶ機会がなかっただけで、学べないわけではありません。

ただし、一般的なハラスメント研修をそのまま受けても、内容が伝わりにくい場合があります。抽象的な概念の説明や長時間の座学では、理解が難しいことがあるためです。

必要なのは、知的障害のある方の特性に合わせて設計された研修です。イラストや具体的な事例を使い、「理解する→気づく→伝える→相談する」という順序で、実践的に進める形式が適しています。

この形の研修は、本人が加害の側にも被害の側にも立たないための備えになります。企業にとってはコンプライアンス体制の強化にもつながります。

弊社では、知的障害のある社員を対象としたハラスメント防止研修をご用意しています。詳しくは「知的障害者対象『自分を守る力を育む』ハラスメント防止研修」をご覧ください。


まとめ

  • 「障害があるから仕方ない」は対応ではありません。 職場が対応すべき問題です
  • 「困っている」と相談することは、差別ではありません
  • 悪意がないことと、あなたが我慢することは、まったく別の話です
  • 我慢・放置・遠ざけるの3つは、いずれも解決になりません
  • 記録は「評価」ではなく「事実」で残す。相談が通らなかったときの武器になります
  • 伝えるときは、曖昧にせず、代わりの行動とセットで、その場で短く
  • 相談が止まったら、段階を上げる。人事部が把握していないだけのことが多くあります
  • 福祉現場では、職員を守ることが厚生労働省の指針上も事業者の責務です
  • 本人が特性に合わせた形で学ぶ機会を持つことが、双方向の備えになります

こんな声も、よくいただきます

「もっと詳細な事例を知りたい」 本記事で扱ったのは、多くの職場に共通する典型的な場面です。実際に現場で起きることは、業種や職場の状況によって変わります。「うちのケースに近い事例」を知りたい、というご相談です。

「自社ではどんな研修が必要か知りたい」 本人向けの研修が先か、周囲の職員向けの理解促進が先か。あるいは職場のルール整備から始めるべきか。状況によって順番は変わります。

どちらも、現状を少しうかがうだけで具体的にお答えできます。「何を相談すればいいかわからない」という段階でも構いません。

[詳しい事例や自社に必要な対応について相談する]

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